へへへ。おかげさまで楽でございますが。
ところで、ちっとおうかがいしたいので
すが“稲荷さん”は厄病神さんの管轄なんですか?。
というのは、えらい昔のことで記憶はたしかじゃあございませんが、出雲の寄り合いのときに、稲荷さんはアタシラの中にいなかった気がします。
そのわりにはアタシラよりも実入りがいいようで、みんな文句をいっていたような気がしまして
しばらく出席していませんので、その後どうなってんでしょう」
オメー今日は冴えてるじゃあねえか。そおよ、実を言うとオレも不思議でなんねんだ。
悪狐がが人間をだまかしているうちに、神様の位を授かったなんてどうにもわからネー。
本来だったら、俺たちの管轄支配のなかのはずだと思うけんど、オレはあいつらと直接会ったことはねえし、王神様からのお達しも読んだ記憶がねえ。
オメーが不思議がるのもむりがねえナー。
この村のことじゃあねえけんど、馬っ子をとんでもねえとこへひっぱりこんだり、祝い事の手土産を化かし取ったり、くそを饅頭だといってくわしたり、どつぼ(肥溜め)に風呂だといって入れちまったり、近道だと言って、でえじな畑ンなかをぐるぐる歩かせたり、そりゃあ数え上げたらきりがねえ悪さをしくさっている。
それが“稲荷大明神”だなんてわからネー。
いろいろわからねえことがあるなかで、本当にわからネーことだ」
厄病神は怒りがだんだんエスカレートしだしてきました。

「ダンゴじゃあない“だんごう”ってやつじゃあございませんかネー。いろいろ考えますと、
この世は腹の立つことばかり、と申します。
アタシなんか、こうのんきjこしていられるのも、疫病神さんのおかげたと心から思っているんです。くどいようですが、ワタシはこの貧乏村で十二分でございます。ハイ!」                           
福の神の神妙な話ぶりに、いくぶんかは心が静まってきた厄病神は、「マーナー」と寂しく答え、それっきり黙り込んでしまいました。

 与太郎の傾いた家で、猛烈な勢いで仕事を始めた疫病神でした。
一方、
福の神は申し訳ないと思いながらも所在なく、小さな目をしばたたせながら、なんとか眠気をこらえて
いたのです。疫病神がウーンと考え込む様にドキッとし、身を起こしはしていましたが、しだいに慣れ、とうと
うぐっすりと冬眠状態になってしまったのです。

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