「こネーだの出雲の寄り合いのことただが、オレたち厄病神の仕事が最高に忙しくて、担当不足でひまな福の神を割り当てているらしいぜ。」
「エツ！そそそりゃ－えらいことだ。わわわたしなんぞとても厄病神様の仕事なぞできません。
祠なんかなくたってこの村がいい！転勤なんていやだ－。
おおお願いです、私の名前が出たら絶対に賛成しないでください。
私はだめな福の神で十二分なのです。疫病神さんのけらいにしてください」

福の神は半べそをかきながら、疫病神の薄汚れてきた金欄緞子のそでにすがりつきました。イヤイヤ、すがりついたというよりは、ぶらさがりました。と言ったほうが正しい場景だったでしょう。
「まままま、おどかしたわけではネーんだが、オレたちのなりふりは大神様がおきめになることで、どうにもなるもんじゃあネー。
多分オメーなんかとうに忘れられているかもナー。こんなときにゃあ出雲の寄り合いに行ってなかったことがよかったかもナー。

全国的にオレたちがめちゃめ忙しいっていうのは、人間共がテメーたちの欲ばっかしこいて、山川を好き勝手に変えちまっている事にあるらしい。
王神様もエレーお腹だちで“止めろ。止めろ”とオレたちをつかって、警告してるのに、ちっともいうことをきかネー。
其のうえ、テメーたちで福の神の名前を語らって、小銭っこからもっとでっかく銭っこを儲けようとしてるらしいぜ。ｲ中間の話しからすればオレなんかまだ暇な方だ。
そんな忙中しい、計画書が燃えちまうなんて！」

「　ところで・・・聞くだけ野暮かもしれねえが、何でこれほどしけた村かオメー考えたことあるか！」

突然の話の変化にとてもついていけない福の神。
頭の中ぱ転勤・転勤”の文字が詰まり、ほかのことなぞ考えるどころではありません。

「村の衆は誉高き平家の落人だなんていってるが、オレの調べた範囲ジャーせいぜい武田軍に敗れた　どこぞの残党の集まりとしか思えネー。
オ｀メーこの村ンなかで正月に松飾りを立てないし、餅つきもしネー家の在るのは知ってるよな。
そりゃあナー、むかし武田信玄との戦で、正月も祝っていられなくなったご先祖を思ってのことらしい。
それに、松飾りをしネー家は、やっぱり戦で負けちまって追手から逃げてる最中に、松の本に隠れて助かったもんで、それから松の本を切らなくなったらしい。
ということらしいがオメーどう思う」

“もぢという言葉を聞いてからにわかに現実にもどった福の神は、久しく食べていない餅を思い浮かべながら「正月の餅は最高ですねえ。あのつきたてのヤツなんか大根おろしで・‥、,ヘヘヘベモーたまりません。
イエイエ、とんだ失礼を。私が考えるにゃ－そんなことは言い訳ジャーないかと思うンです。この村は米なんかろくにとれません。取れたとしても年貢に収めるのが精一杯切り畑（焼き畑）じゃあせいぜいひえ・あわ・そばくらいしかとれません。そんなもんではもち米と交換できませんし・‥。
それにしても、正月餅を食べたのはいつのことでしたっけ。忘れてしまいました・・・。」

「そうだなー。この村じゃあもっと山奥に「隠し畑」を切り開いて、検地の役人をごまかしているが、そことてたいした収穫があるわけでもねーし。それでも、そいつをあてにしなくちゃあ生きていけねーありさまよ。
そのことは、オレとは直接関係がネーが、山を荒らしておいて、地崩れなんかがオレのせいだとおもっていやがる。
正月餅のネーのも、オメーが言うとおり、かっこづけのいいわけかもしれネー。
オメーにしては、的を得た考えだ。なんだったら、厄病神に推薦してやるぜ。」
ヒエーーーと、ひっくり返った福の神でした。