花の春も浮かれるままに過ぎてゆき、梅雨の季節となりました。たえまなく降り続く雨に、村人も旅人も背中をまるめて通り過ぎてしまいます。お供え物もあがらなくなり、腹ぺこな福の神でございました。
以前だったら、何もな
くてもこんなもんかな−
と無欲とも違う、あきらめと無気力とで過ごせたのですが、
なんとなく広くかんじる祠の中で、うらめしく、雨空をながめて過ごしていたのでございます。

 ひさしぶりの梅雨の晴れ間に、炭焼きの木平じいさまが、きび団子をもってきてくれました。「よく降る雨でごゼーやす。
柿沢が山抜け(山崩れ)田んぼは流されて、いちじはどうなるものかと思いやしたが、このお天気さまで、すこしゃ−よくなるズラで・・・。」
水平じいさんは、祠にからみついたつる草や、おいしげった雑草を引き抜き、きれいにしてくれたのです。

“疫病神さん、お仕事をやったとみえる。雨降りのなかご苦労なことだ。
水平じいさ
ん、きび団子とは、はずんでくれたものだ。
大福帳に書いておかなくちゃ−。”

久々に大福帳に記入できるうれしさに、きび団子の味はおろか、大きさや感想までしっかりと料理評論家風にあれこれと書いたのでございます。

前ページ   



次ページ

目次

inserted by FC2 system