一つ家に遊女も寝たり萩と月      芭蕉 (奥の細道)

 雑魚寝にちかい安宿か、貧しき農家での一間のできごとか。ど派手な安物の着物姿だが、萩の花を思わせる清楚さがのこる遊女と相部屋になり、破れ屏風だけの仕切りで落ち着かない。彼女は俺のことを、女人を断った悟境の僧侶だと誤解しているようだ。頭キンキン・お目目ギラギラ。翌朝は、頭フラフラ・お目目ショボショボ。私は絶対にそおなってしまいます。
 良寛さんは芭蕉を「脱落の心身」と称して゛大変尊敬をしていたといいます。そんな芭蕉さんですから「八風吹けども動かず 天辺の月」とすこしも動ぜず、無心な月のごとくだったのでしょう。
 軽薄な解釈で大目玉を食らいそうですが、私がヨーロッパをほっつき歩いていた時でした。スペインはバルセロナ。ピカソ美術館ちかくのちょっとあやしげな路地は、食堂も安酒屋もおっちゃんもおばちゃんもねーちゃんも皆元気。すっかり気に入って、薄暗くこ汚いがともかく安い宿に逗留した。ところがその宿は連れ込み宿で、夜になるとその手の女たちが狭い階段にたむろするが、私には声をかけてくれない。よほど貧乏な東洋人と思われたのか、安酒場・安食堂でおなじみだったのか゛ともかく誘ってくれなかった。「オレ鼻血ブーのオトコなんだけど・・・・。八風吹かずとも身辺は嵐也」

蛸壺やはかなき夢を夏の月    芭蕉

萌芽・・何のための旅だと自問自答の繰り返し。妄情の苦悩は深まるばかり

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