　マンションの一部屋でパソコンをカタカタさせながら、数億円の商いをする虚構産業全盛期ですが、それ以前の産業の象徴は煙突でした。ニョキニョキと立った煙突からは真っ黒な煙が吐き出され、人々はその下で毒ガスなみの汚染空気を吸っていたのでした。そうです、私が生まれ育った戦後の昭和期は、今なお終わっていない産業公害の真っ只中でした。
　「炭鉱節」のお月様は夢や理想社会とは程遠い復興優先時代。「もはや戦後でわない」と政府は大見えを切り、「働け・はたらけ・生産UP・所得倍増」と猫の三味線踊りのごとく熱せられていたのです。「お月様」はすすけ、こころの光りを見失っていた時代の流行歌なのです。私の好きな作家の一人である井上ひさし氏のエッセイ「ささやかな宗教改革の試み」に金儲け最優先の戦後昭和の時代を新興宗教に見立てたエッセイがあります。その宗教の御神体は商業神であり、その司祭は財界のお偉方であり、その熱心な氏子はわが子を一流大学に進め、企業戦士にせんとする親たちであると、辛辣に述べておられる。ぜひご一読をお勧めしたい。
　ところで、猫の三味線踊りといってもお分かりにならないと思いますのでチョット説明をいたします。と言っても古典落語集からのネタですが。
　熱くした鉄板に、三味線演奏をしながら猫をおきます。当然アッチチと飛び上がる。そのうちに三味線演奏で踊りだす、という条件反射を利用した芸でした。「猫じゃ・猫じゃ・・・・」と踊り狂った見世物を、お祭の小屋がけ舞台で見た記憶があります。
　話をもどしましょう。
お月様もすすけてしまうほど生産UPと人々は熱せられ、「猫踊り」をしていたわけですが、それは今日でも本質的に変わっていない経済社会の業といえるかもしれません。しかし、「月を観る・観ようとするこころ」は以前より強くなっていると思います。
踊る猫ばかりでなく、「化け猫」になってもいいのではないでしょうか。どう化けるか、それが問題ではありますが・・・。
　やっと「あかあかや月」の本題の入り口にくることができました。
義務教育の国語ですらチンプンカンプンのまま今に至っていますから、「炭鉱節」のノリのまま、月をテーマにした画文集を表したいと言う、一念で書き進めたいと思いますのでよろしくお願いいたします。
　
あかあかや　あかあかあかや
　あかあかや　あかあかあかや月

　晴れ晴れ、あっけらかんそのまんま浅学をものとせず、恥とせず自己流の迷解釈で「あかあかや月」までの旅におつきあいください。