月天心貧しき町を通りけり      蕪村

 私は蕪村が歌いあげたこの景色の中で安酒にヨロヨロしながら、どぶ板をカタカタいわせ狭い路地を歩いてきました。
「会社は俺のことをナンニモわかっちゃーいねー。」と思い出すたびにむかっぱらがたち、電信柱に「バカヤロー」とどなれば「うるせー。ヨッパライッ」と暗き家からどなりかえされる。そこでシュンッとなれば静かな夜だったのだが「ナニオッこのやろー」。暗闇の路地に点々とあかりがともる。戸板一枚を隔てた口喧嘩がはじまり、闇と寝息が支配していた路地は一挙に騒がしくなる。時として寝巻き姿のおやじが飛び出してきて、ほんとうにとっくみあいになったりもする。今だったら、たちまちパトカーがはせ参じ、御用となってしまうところだ。
 落語的な笑い話でなく、私はこの情景の主人公として、ふらふら・よろよろしてきましたが、町の様子は一変し路地裏と言えるようなムードがありません。なによりも、人っ気がありません。
 天空に「月」の在ることも認識できなかったスッポンも還暦を過ぎ「おっ月様」を認識するようになってきました。この句のように燦然と輝く満月を手に入れたいものです。
そこで月天心 ビルの谷間の 赤提灯  お粗末サマ。

蕪村 1716-1783 江戸中期の俳人 とくに文人画は独特な雅風の名手として芭蕉の「奥の細道」「野ざらし紀行」の俳画を描く

妄楼都市・・破壊と構築を繰り返し、欲望の巨大迷路を作り上げ、反自然的行為が成功だと錯覚をする。

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