・日照りと旱魃と災害のオンパレードが続き、村人はお供えや壊れた祠の修理など、とてもできる状況ではなかったのでございます。
それ以上に、祠に神様がおいでになるなんて思ってもおらず、「こまったときの神頼み」すらなかったのです。
サブクテ長い信州の冬に向かって、福の神はまともな衣類もない。その上に、小さな祠に厄病神の大きな荷物がきてしまいました。
小さなからだをもっと小さくして、恨めしく荷物みつめてはをため息ばかり。

「年々大きくなったいく荷物の中身は何だろう。食い物でもなさそうだし。かといって、お宝でもあるまいし・・・。この荷物を預かるようになってから何年たつかしら」
指折り数えてみましたがとてもたりそうもなく、10年・いや100年。と思い出すのもめんどうになり、やめてしまいました。
 いつもの年でしたら、それっきり気にもしなくなってしまった福の神でしたが、今回はやけに気になってしかたがありません。
「まだ当分は帰ってこない。チョット見るくらいはわかりゃーしまい・・。」
福の神はおそるおそる荷物をほどいてみました。
でてきたものは
「毎年度厄事計画報告書」と墨痕あざやか、ご大層に書かれています。


ここここりゃーやばい。へたに匂いでもついたらばれちまう。くわばらくわばら。」
見てはならないものを見てしまった後ろめたさで、福の神はあわててもとにもどしました。
しかし、一度知ったものはもっと知りたくなるのは人の情。いや、失礼。神様とて同じことでございます。
長いあいだぼーと眺めていましたが、すみっこをチョット開いてはあわてて閉じることを繰り返していました。そのうちに大胆になり、暇っつぶしに読んでみようという気をおこしたのです。

***年一年一月
村内をくまなく巡回し、各家の正月祝い状況を調べておくこと。特に前年度との違いをチェックすること報告書の提出は三ヶ月以内とする。
恒例の歳時記の点検・・・初詣・若水汲み・炊き始め・七草・松納め・三九郎・厄除け・山ノ神
天気降雪予報・・山の神から長期天気予報の 通達によると、今冬は積雪おおし。 雪崩多発・峠道は普通になる。春先まで通行不可能の予定。
担当厄事・・天変地変にかかわる大災害による厄事は管轄外に尽き計画はしない。
三九郎の火の不始末でぼや火事になるがたいしたことにはならない予定。ただし風の神と打ち合わせのこと。
五作の家が崩壊のうへ、けが人がでる。
   理由・・以前より家の手入れはおろか、雪下ろしもせず、博打ばかりしているのでオシオキ
金太郎の赤子が「やけど」をする。
   理由・・夫婦喧嘩ばかりして子供のめんどうをみない。夫婦ともに怠け者
村人全体・・たくわえの食料が「ねずみ」に食われだす。
ねずみの大将と打ち合わせのこと---一月二十   日午後一時--水車小屋
注意事項・・山ノ神・水の神・田の神・火の神・風の神には年始に行くこと
十五日・十六日の厄日には絶対に外に出ないこと。

二月
天気予報・・大雪・・三角山に大雪崩続発
節分・・オレが一番楽しい時で、たらふく豆が食える。しっかり蓄えること。
涅槃絵・・オレとは直接関係内がオコボレが期待できる。
炭焼きの木平が雪崩に巻き込まれ、けがをする。・・信心深くだいぶ世話にはなっている。個人的には何とかしてあげたいが、木を切りすぎて山ノ神がおこってしまった。
一郎夫婦に子供が生まれるが病気になる。・・不清潔な暮らしからくる。春には直る予定
三月
天気予報・・雪多く、低温が続く
村人に風邪が蔓延するが、医者がこれない。死者は数人になりそう。
四月
天気予報・・遅い春が来るが・おそ霜の被害あり
オレは少しくたびれたので長期休暇をとる事

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