そそり立つ山々にぐるりと取り囲まれた村は、
里に出るには、人も馬もやっと通れる一本道でした
ひと雨降れば土方は崩れ、大雨ともなれば、もう
里人から所在すら忘れかねない山奥です。
それでも、村の入り口には、鼻息でもぶっ倒れそ
うな「ほこら」がありました。
まがりなりにも、ぶら下がった扁額には「道祖神」
とようやく読むことができます。
「道祖神」となりますと数ある神様のなかでも、も
っとも親しみやすい身近な神様で、人気ナンバ
ーワンでございました。縁結びの神様としてばか
りでわなく、家内安全・お家繁盛・養蚕や五穀豊穣
をかなえてくれる作神様として、今日も大切にま
もられております。
信州の村道の傍らに「道祖神」と深く彫られた
石碑や、男女が手をとっているレリーフ像や、
なかにはキスをしている神像など、そりゃー楽し
い石像がございます。
自然とともに暮らしてきた庶民にとって、難しい宗
教の教えよりも、ずっと昔から血肉となってきた土
地神様です。
話はそれますが、彫刻家で有名なザッキンさ
んはこの石造をご覧になり、感激のあまり江
戸時代以降の庶民芸術の結晶だと言ってお
ります.
道祖神は庶民にとってスパーマンいや失礼、ス
ーパーゴットで、頼りがいがはるはずの神様なん
です。
ところが・・ところが、この朽ちた祠に「福の神」がすんでいたのでございます。
「御尊顔を拝しますれば・・・・」とうやうやしくご紹介したいんですが、言うほうが気恥ずかしくなってしまうほどで・・・。
干からびたパンに、干からびた黒豆をチョコンチョコンとくっつけたごとき目と、チョットつまんだ程度の鼻と、こけ
たほほ。
手入れなど一度もしたことがない泥鰌ひげと、正に貧相の決定版の御尊顔でございます。